言葉より先に手が動く——夜のテーブルで起きる小さな判断
夜のダイニングで、光が斜めに落ちていた。
仕事を終えて椅子を引くと、背中がゆっくり沈む。
指先には、キーボードの熱がまだ少し残っている。
テーブルの上には、開けたままの箱が置かれていた。
「トマトとチョコレートのスープが一番うまい」。
名前だけで、少しだけ手が止まる。
箱の中のカードが、光を受けて薄い影を作っていた。
コーヒーを淹れて戻ると、
椅子の位置はそのまま、夜の空気だけが静かに動いていた。
判断が長引いていた時間帯
仕事の画面を閉じたあと、
何をするか決める前に一拍が挟まっていた。
手を伸ばす前に、考える動きが先に来る。
その遅れが、夜の入り口に残っていた。
テーブルの上の箱に視線を落とす。
ルールはまだ読んでいない。
とりあえず、カードを広げてみることにした。
カードという物理が、迷いを飛ばす
箱の中には、三種類のカードが入っていた。
食材カード
トマト、チョコレート、バナナ、ベーコン、豆腐など、
個別の食材が一枚ずつ描かれている。
これは手元に伏せて持つ。
お題カード
スープ、サンドイッチ、サラダなど、
料理の形を示すカード。
テーブルの中央に表向きで置く。
テーマカード
おいしそう、食べ歩ける、子供向け、二度と食べないなど、
料理の方向性を示すカード。
これも中央に置く。
遊び方は、
手元の食材カードを組み合わせて、中央のお題とテーマに合う“料理の言葉”を即興で作るだけ。
知識を当てるゲームではない。
言葉を置いていく遊びだった。
言葉が先に出て、考えがあとから追いつく
お題カードをめくると「スープ」。
テーマカードをめくると「おいしそう」。
手元の食材カードを二枚引くと、
トマトとチョコレートが並んでいた。
カードを見た瞬間、
手が自然に動いていた。
「トマトとチョコレートのスープが一番うまい」
口に出た言葉が、そのまま料理名になった。
理由を考える前に、言葉がテーブルに置かれていく。
手が止まらないまま、次のカードに触れていた。
考えてから話していた夜が、
話しながら考える夜に変わっていた。
カードを束ねて、箱に戻す
テーブルに広がったカードを、
食材・お題・テーマに分けて束ねる。
箱に戻すと、軽い音がひとつだけ響いた。
椅子の位置は変わらない。
夜の空気だけが、ゆっくり落ち着いていく。
明日の朝も、
コーヒーを置いて、箱を開けて、
手元のカードを一枚めくるだけでいい。
選択は、もう終わっている。
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